2006年07月18日

ナイフ

ナイフ
男ならナイフのひとつは持っている。
時には材木の加工に又、時には道端の小花を優しく掘り起こすために、土の中に刺す込む。
それが高価であろうとなかろうと、遠慮することはナイフに失礼だ。
ナイフは道具なのだ。
ナイフの善し悪しを決めるのは簡単だ。よい物(ピン)は、ガラスケースに収められていて、勝手に手にとって見ることが出来ない。
キリはどれも同じ値段で売られている。
おまけに、十徳とか九徳とか不必要な小物を身につけている。
ナイフを無性に欲しくなることがある。そんな私が偶然小さなナイフを手に入れることが出来た。
手に入れたといっても人に貰った訳ではない拾ったのである。
拾ったのなら届けなければと、言う人がいるも知れないが場所が問題だ。
早戸川といっても知らない人が殆どだと思うのでチョコット説明させて頂くことにした。日本百滝のひとつに早戸川大滝が記載されている。
神奈川県丹沢連峰を源流とする渓流のひとつだ。その早戸川大滝迄の道のりは、曲がりくねった狭い道を四十五分走り、徒歩一時間十八分要する。この時間は自分の経験であるので人によっては、だいぶ短縮される。

自分がナイフと出会ったのは、台風十八号が日本本土に上陸した日の、朝八時半である。
山の恵みの確認の為、木々枝に巻きついた弦の先を見ながら歩いていた。
小雨時々曇りの天候で足元に気をつけなければならない。その時、崩れた土砂の中に二本の平行な金属が見えた。
私は三歩ほど進んだが、黙って振り返り眼光を一点に集中させた。そこで、小さなナイフが助けてくれーと叫んでいた。
私は親指と人差し指でそのナイフをつまんだ。柄の色はすぐに確認できなかった。灰色の色が褪せて、ボコボコしていた。泥がつまり刃を引き上げるのは簡単に行かなかった。
小さいのに鋏が装着されていた。その場所で泥のすべてを取り除くことが出来ないので、右胸ポケットに入れた。
大切に持ち帰ったナイフに命を与えるに時間を惜しんでは行けない。水道水で洗い流しながら隅ずみの泥を落としたが、中の錆まで落とすことは最後まで出来なかった。
柄はボコボコだが、小さなマークを確認できることが出来た。
刃の部分は思った以上の光沢を見せた。この時大切にしようと心に決めた。
私は、ボコボコの灰色をした柄に化粧をすることにした。
プラモデル用の深緑アクリル塗料を小さな筆で幾度も重ねて塗った。しかし柄のボコボコは拾った時と変わっていない。でも柄は一段と輝いて答えてくれた。
刃の部分を引き上げるとカチッといい音がする。
私はじっと見つめてから刃を指で軽く押すと、引き上げた時より大きなカチッと音がした。
私には、サンキューと聞こえた。
これでナイフは自分のものと確信した。



Posted by zinzin at 11:42│Comments(0)
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。