2006年05月09日

華散りぬ(完結の章)

完結の章

 ホテルN白馬は地元県警、消防関係で騒然としていた。
八方尾根は快晴で登山、いやハイカーで賑わっていたと言う。又二人第一ケルン、第ニケルンで見かけたと言う人も大勢いる。
現在の神隠し、いやそれは考えられない。
「もう一度八方池山荘に連絡をし、二人を見た人に様子、足取りを聞くと共に唐松岳頂上山荘迄含めて目撃情報を把握したほうが良いのでは」と観光協会の担当が口火を切った。
地元県警、消防関係者も無言のまま話し合いが終わった。

 二人不明の噂は六日に白馬村に広がった。
真冬ならともかくこの季節に皆目見当がつかない。今の時期なら四五日は大丈夫という事で沢周辺を重点に捜索を開始した。
ヘリコプターによる捜索が行われたのはそれから二日経ってからであった。
村の噂は渡邊淳一の「失楽園」の話でもちきり、スナックでは「私もこんな恋をしてみたいわ」などと不心得な者まで出る始末。
それから暫く有志による捜索が続いた、唐松岳も唐松沢も含めて行われたが進展はしなかった。
二人は朝日に染まる北アルプス稜線を一望する事が出来たのだろうか。
剣岳、五竜岳を大好きな生ビールを飲みながら展望出来たのだろうか。

「完結の章、作者は山岳の知識に乏しい。ここでは二人が八方尾根でいなくなった。という事を読者諸君が解ってくれれば良い。ナニ又インチキ、手詰まりの時はこれが得策だ。」
サァ次に進むよ。

 五日の早朝 二人は南小谷駅近くの食堂にいた。
「もうすぐ糸魚川行きの電車が来るので急ぎましょう。」半そでのワンピース姿の依子が右手の時計を見ながら北村に言った。
北村は吸いかけのショートホープを灰皿の上で揉み消してから腰をあげた。
大きな荷物であったが、北村は軽々と抱えて駅舎に向かった。

電車は予定の7:55分に南小谷を離れた。
山間を縫うように短い車両がゴ、ゴ、ゴと、時には連結器の触れ合うギゴ、ギゴと言う音を響かせながら走る。
右後ろからの朝日による影を追いかけるように。いや電車から逃れるように、二人の行く末を占うように。
糸魚川駅着 8:50分予定時刻だ。
二人は糸魚川発9:55分(特急北越2号)で富山方面に向かうのだが待ち合わせ時間が有るので、
八方尾根での出来事について振り返る事にする。

 四日昼近く第一ケルンで白馬三山を背に記念写真を終え二人は腰にレインウエア巻いた姿で第二ケルンまで足を運び小休止し、その後同じルートで下山したのであった。
先を依子が歩き、それを確認しながら北村が続いた。
腰に巻いたレインウエアをリュックサックにしまいながら、ゆっくりゆっくり歩いた。時々首筋を通り過ぎる微風が過去たちを知らない土地に運んでいく。
しかしその過去を忘れてはならない。
人が思い出される一番古い記憶こそが過去なのだ。
だから自分には過去が無いと言っている人間は人生の半分も見えていない事になる。
過去の存在こそ現在を知る一番の道標なのだから。
北村は犯人を追う刑事の如く、時には離れ時には近づきながら依子の後に続いた。
二人は第二ケルンで消えたのだ。今は個々のハイカーに過ぎない。
依子が細野諏訪神社に着いたのは三時半過ぎの事であった。ゴンドラリフト乗車を遅らせた北村が姿を現したのは四時を経過していた。

 「予約していた山田ですけれども」北村は、白馬Nロイヤルホテルのフロント担当に左手にリュックサックを持ちながら言った。
担当は「山田様ですね」と言いながら予約台帳をチェックし、すぐに405号鍵を北村に渡しながら、右側のエレベータを使用下さいと伝えた。
北村は左腕にリュックサックを下げ手に鍵を持ちながらエレベータに向かった。
依子はフロント担当に軽く会釈してから北村の後に続いた。
濃い桃色絨毯を歩いていくと左端に自動販売機が二台置かれていた。その隣が405号室、部屋の中はテーブル、テレビ、冷蔵庫ごく普通のホテルと変わりなかった。
「北村さん私怖いわ」と依子は北村を見つめながら言った。
「別に死ぬわけじゃないのだから」北村はタバコを吸いながら一言言った。
「ただ」と言って依子は下を見つめた。
「真田さんの気持ちわかる様な気がする。しかし振り向いても後ろには何も無いのだから」と俯いている依子に声を少し小さく囁いた。
それから暫く二人の無言が続いた。
壁に掛けてある部屋の楕円形の時計は五時を少し過ぎていた。
気を取り直した依子は「食事の前にシャワーを浴びよう」と言って部屋入り口近くのルームに消えた。

 「ホテルの食事は何処も同じね」何時もと変わらぬ口調で依子が北村に話し掛けた。
「テレビで放映しているような食事は私たちには無理だね」と苦笑いしながら北村が答えた。
「この季節だというのに白馬は湿気も無くいいわね」依子は一人呟きながら北村の手を握った。
自動販売機のところに来た時「真田さん百円硬貨二個持っている」と尋ねた。
依子は黙って五百円硬貨を北村に渡した。
北村は右側の自動販売機からショートホープを購入し早く部屋に戻ろうと目で合図をした。
部屋の灯りは壁に埋め込まれた小さな電球とベッド上に置かれたスタンドの二つが優しく二人を待っていた。
北村はすぐにシャワー室に向かった。
依子がテレビの電源を入れるとプロ野球中継が放映されていた。何時もと同じ球団ばかりと言いながらすぐに電源を切った。
依子はベッドで北村がシャワーを終えるのを待つ事にした。
北村を待っている間、依子は自分の体が火照るのを感じていた。自然に手が下半身に動き始めた時北村がシャワー室から出て来てタバコに手を伸ばした。
「北村さん早く」と絞り出すような声で依子が求めた。
北村はタバコを置いて依子に寄り添いながら乳首を口にくわえて右太股を下半身に這わせた。
何時もとは別人のように依子が燃えているのが伝わってきた。
北村は身体を半回転させ依子自身に舌を這わせた。
「ウッ、ウッ」と言う声と同時に北村自身に舌を添えて絞るように首を動かした。
北村は右手の中指と薬指を依子の中に滑り込ませ中指で膣の上側を押しながら小刻みに動かした。
依子の声が一段と大きく「アアー、アアー」と部屋に響き渡った。
「もうダメ、もうダメ」と聞えた時、北村は右手に暖かいものを感じた。
依子は呼吸の乱れが治まるのを待ってから「北村さん入れて」と空ろな目をしながら言った。
北村は何時もと違う依子を垣間見た気がした。そして今まで以上に優しく愛撫しながら腰を引き寄せた。
この時依子の腰はベッドから浮いていた。北村は依子の両足を軽く持ち上げそのまま依りの方に倒して両膝で身体を支えながら愛液で濡れた依子の中に挿入した。
北村は左右に、又依子の膣を抉るように身体を反らした。
「アァー北村さん行く、行く」と言いながら依子は足を硬直させたまま動かなくなった。
北村は依子に添い寝しながら眠りに付いた。

 糸魚川発9:55分(特急北越2号)の列車は朝市に向かうのか、大きな荷物を抱えた年配者の姿が多く、遠くに来た事を感じるに相応しい。
十時ニ十分に差し掛かる時、まもなく魚津、魚津と言う車掌の声が流れた。
「北村さん蜃気楼見に行こう」と依子が一言言った。
「蜃気楼は見えてもすぐ消えてしまう」北村はタバコに火を付けながら答えた。
列車は何も聞いていなかったように通り過ぎていった。



Posted by zinzin at 11:40│Comments(0)
 
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